真政大意

提供: 日本社会主義文献類聚
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  • 明治3年7月(1870年7〜8月)に刊行された、加藤弘之「真政大意」の抄録である。この抄録部分は、社会主義・共産主義について日本語で言及している最古の例の一つである。
  • 底本:加藤弘之『真政大意 下巻』谷山楼、明治庚午七月。

又右申ス如ク。世ノ中ノ貧富ヲ均シウシヤウト存ジテ。井田均田又ハ区分田抔ニ基イテ。今時ニ相應スル制度ヲ立テタイ抔思フ腐儒モ儘アルヿヂヤガ。元来世ノ中ノ貧富ヲ均シウシヤウト申スヿガ。以ノ外ノ心得違デ。甚以テ安民ニ害ノアルヿデゴザル。何故ナゼト申スルニ。段々申ス通リノ訣デ。例ノ不羈自立ノ情ト權利ノニハ。成丈伸バサセル樣ニ致サ子バナラヌモノデ。誰シノ人モ此情ガアレバコソ。各我負ケシ劣ラジト競ヒ合フモノデ。此競ヒ合フノ情ガアレバコソ。人々自在ニ其幸福ヲ招クヿガ出来ル。ソコデ。此情ガ即自然ト世ノ中ノ開化ヲ進メルノデ。コレカラ百工藝竒器良功モ追々闢ケ。随テ利用厚生ノ術モ備ハリテ。遂ニハ國家ノ富ト云フモノガ段々ト増シテ參ル。夫故政府ガ此情ト權利トヲ束縛羈縻セズシテ人々ガ相競フテ其幸福ヲ求メタラレル樣ニ任セテ置ケバ。自然ト所謂安民ノ場合ニモ至ルデゴザル。併立憲政體ノ國々デハ。カク我レ負ケシ劣ラシト競合フ情ニ任セテ置クトテ。決シテ我儘勝手次第ヲシテモ。構ハヌト云フヿデハナイ。夫レニハ必憲法トイフモノガアルノ故。決シテコレニ背イテ他人ノ權利ヲ屈害スル樣ナヿヤ。或イハ風俗ヲ傷ル樣ナヿ抔ヲ許スデハナイガ。箇樣ナ弊サヘナイヿナラバ。其餘ハ都テ人々ノ働キ次第ニ任セテ置ケ。各負ケジ劣ラジト思フ志ヲ勵ミ遂ゲサセルヿデコザリテ。茲ガ即真ノ政事ト申スモノデゴザル。然ルニ貧富ヲ均シウシヨウ抔云フ論ハ。チヨツト聞イタ所デハ至極仁政ノ樣ニ聞エル事ナレ〓【トモ U+2A708】。右申ス不羈ノ情ト權利ヲ束縛羈縻スルヿ故。如何程才力ノアルモノモ。其才力ヲ伸スヿガ出来ヌヿニナリ。又愚昧ナモノヤ。懶惰ナ者ニハ。箇樣ナ政事ハ至極難有イ事ノ樣ニ思ハレルデアラウガ。是亦〓【熟の「れんが」をなくして「丸」の下に「火」】考シテ見ルト。箇樣ナ輩ノタメニモ實ハ不仁政ニナル。何故ナゼト申スニ。右ノ如ク各負ジ劣ジト。競ヒ合フテ勉強スレバスル丈ケ。己レガ富ヲ増シ。又勉強セ子バセヌ丈其貧ヲ増スト云フ樣ニシテアレバコソ。愚昧ナモノヤ。懶惰ナ者モ。自ラ勉強スルヿニナリテ。自然ト天賦ノ才力丈ハ磨キ出シテ。各相應ノ幸福ヲ得ルヿガ出来ル筈ノ所ガ。右ノ如ク貧冨ヲ同ジウシヤウト云フ樣ナ制度ガアリテハ。箇樣ナ輩ハ終ニ愚昧懶惰ニ止マルヿニナリ。就テハ益其貧困ヲ増ス道理テ。到底國家ノ困窮風俗ノ頽廃ヲ生ズル根本トナルデゴザル。既ニ歐洲ニモ往古希臘ギリシヤノ盛ナ時分之ニ類シタ制度モアリ。又其後ニ至リテハコムミュニスメ―――――――ヂヤノ。或ハソシアリスメ――――――抔申ス。二派ノ經濟學ガ起リテ。二派少々異ナル所ハアレ〓【トモ U+2A708】先ハ大同小異デ。今日天下億兆ノ相生養スル上ニ〓【於の「方」を「てへん」】テ。衣食住ヲ始メ都テ今日ノ事ヲ何事ニヨラズ。一樣ニシヤウト云フ論デ。元来此學派ノ起リタ所以ト云フモノハ。天下ノ人民各勝手ニ任セテ置テハ。其才不才ト勤惰トニヨリテ。大ニ貧富ノ差ヒヲ生ジテ。冨者ハ益冨ミ貧者ハ益貧シクナリ。就テハ四海ノ困窮モコレヨリ生ズル事ヂヤカラ。今日衣食住ヲ始メ。其外私有ノ地面器物及ヒ産業等ニ至ル迄。都テ人々ニ任セルヿヲ止メ。各人ノ私有トイフモノヲ相合シテ。悉ク政府デ世話ヲヤイテ。右ノ如ク貧富ノナイ樣ニシヤウト云フ。所謂救時ノ一法デゴザリテ。素ト勸導ノ心ノ忉ナル所カラ出タヿニハ相違ナケレ〓【トモ U+2A708】。其制度の嚴酷ナルヿ實ニ堪えユベキニアラズ。例ノ所謂不羈ノ情ト權利トヲ束縛羈縻スルヿ。此上モナク甚タシイヿデゴザルカラ。實ニ治安ノ上ニ〓【於の「方」を「てへん」】テ尤モ害アル制度ト申スベキノデゴザル


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