朝鮮併呑論を評す

提供: 日本社会主義文献類聚
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  • 社会主義者幸徳秋水(1911年没)による評論「朝鮮併呑論を評す」の全文である。
  • 底本:林茂・西田長寿編『平民新聞論説集』岩波書店、1992年
  • 底本の親本:週刊『平民新聞』 第36号 1904年7月17日
  • 用字・仮名遣いは底本に従った。


朝鮮併呑論を評す

 吾人ごじんは近刊の新聞雑誌において朝鮮に関する有力なる二論文を見たり即ち左の如し
 ▲『韓国経営の実行』『韓国経営と実力』(国民新聞社説、七月八日、十二日)
 ▲『朝鮮民族の運命を観じて日韓合同説を奨説す』(新人第七号社説)
 『国民』の徳富とくとみ氏が如何いかに今の政府及び軍人に親しきかを知り、『新人』の海老名えびな氏が如何に今の青年の一部にるかを知る者は、吾人がこの二論文を批評するを見て、決して無用の業とさざるべし
 国民づ『韓国かんこく経営の実行』に於ていは
  ▲日露開戦以来既に五個月を経過し、日韓議定書調印後既に四個月を経過す、然りと雖も、此間に於ける韓国経営は……実質的に殆んど一の見るべきものあるなく、日韓議定書の精神の如き、未だ一として具体的に実現せられたるものなし。
  ▲御料荒蕪地開墾の要求の如き……韓廷内には異論沸騰して容易に之を承諾するの気色なし。……其理由は必ずしも一ならざるべしと雖も、我国の意思の未だ充分に徹底せざることは大なる原因の一ならずんば非ず。
  ▲故に今日の急務は、我実力を以て韓廷にのぞみ、以て我意志を徹底せしめ、簡明直截に我が為さんと欲する所を為し我が行はんと欲する所を行ふに在り。
  ▲夫れ韓国に対するの途豈他あらんや、唯だ韓国が一に我国の保護の下にあることを知らしめ、実力を以て之を指導誘掖し、我に対して被保護者の実を挙げしむるのみ。
 嗚呼あゝ『日韓議定書の精神』とは何ぞや、『我国の意志』とは何ぞや、『我実力』とは何ぞや、吾人はいまだこゝにその明答を得ず、しかれども国民子は其最後に於て、韓国を『我国の保護のもとに』置くべきを言へり。而して国民子更に其『韓国経営と実力』の冒頭に於て曰く
  ▲吾人は韓国の領土保全の為めに両回の戦争に従事したり。而して其一回は今尚戦争中也。
 嗚呼『韓国の領土保全』、『独立扶植』の警語は何時いつの間にやら消え失せたるこそ笑止なれ、既に保護国とふからは独立の二字は余り声高こわだかに語り得ざるはずなり清盛きよもりよろひ弥々いよ/\多く法衣ころもすそより現れたり、而も其『領土保全』を説明するやまた更にはなはだしきものあり、日く
  ▲吾人は韓人の好意に依頼しは(ママ)彼国の領土を保全する能はず。(評に曰く、措辞巧妙を極む)
  ▲然らば則ち韓国の領土を保全するには唯だ我が実力を以てするあるのみ、実力の二字を今一層手緊しく云へば兵力のみ。
  ▲故に吾人は、韓国の要所に兵営を建築し我が軍隊をして、恒久に韓国に駐屯……せしめんことを望む。
  ▲されど韓国の領土は単に韓人の為のみに保全するにあらず、又我国の為に保全する也。即ち韓人の欲するにせよ、欲せざるにせよ、韓国の領土は是非共他国の侵略より保全せざる可らず。
  ▲故に吾人は韓国経営の第一着手として先づ軍事的経営を勧告す。
 清盛は既に自ら其法衣を脱ぎてたり、実力とは、すなはち兵力の事也、領土保全とは明かに領土併呑へいどんの事也、こゝに至つては独立も保護もあつたものに非ず、世の義戦を説く者、世の『韓国の独立扶植』を説く者、これよんはたして何の感あるか
 次に吾人をして新人子に聞かしめよ、新人子は『日清戦争の当時、日本軍が朝鮮独立の為に出征したるを喜び、日本帝国を東奔西馳とうほんせいちして愛隣の大義をまつたうせんことを論じた』る人なり、而して『近頃ちかごろ宇内うだいの大勢と東洋の形勢に深く感激する所あり、韓国民族に一片の忠言を呈』して曰く
  ▲韓国は大陸に圧せられざれば、大海に制せられて、遂に自主独立の権威を発揚すること能はざりき。其間中立を維持せんとするが如きは有名無実のみ、実なきの名は君子の恥づる所なり。
  ▲事大主義は外に二帝国を有するときは勢ひ国家を二分せざるを得ざるなり。
  ▲因て今や世界の大勢に鑑み、隣邦の盛衰を思ひ民族本来の特質を考へ、……露に合同するか、日に合同するか、其一を撰ぶに在り。
  ▲世に属国ほど憐むべきるのはあらざるなり、属国たらんよりは寧ろ滅亡するに若かず、又保護国となる決して名誉にはあらざるなり、保護国とは体裁好き属国に外ならず。
  ▲韓国は日露熟れに合同すべきか……韓人の合同すべき民族が日本たることは火を見るより明なり。
 鳴呼おほかみは法衣を着すましたり、保護国は不可也、属国は不可也、而もたゞ『合同』と称すれば甚だ可也、合同乎、合併乎、併呑乎、『実なきの名は君子のづる所なり』とせば、吾人は韓人が、無実の合同をさんより『むしろ滅亡するにかず』と言はんことを恐る。此点に於て吾人は寧ろ国民子の露骨を愛す、新人子更に曰く
  ▲スラブ民族が如何に異民族に悪感を懐き居るかは彼れがユダヤ民族に対することにて明白なり、……韓人が露人と合同せんとするは……合同にあらずして併呑なり、韓人は到底使役せらるゝのみ。
 吾人の見る所をもつてすれば、日本民族が如何に異民族に悪感をいだるかは、れがいはゆる新平民に対することにても明白也、日本人が如何に韓人を軽蔑けいべつし虐待せるかは、心ある者の常に憤概せる所に非ずや、韓人が日本人と合同せんとする事あらば、そは合同に非ずして併呑也、韓人は到底使役せられんのみ、新人子最後に曰く
  ▲日本民族より見れば、韓民族と合同することは或は其光栄とする所にあらざるべし、故に日本人の未だ発せざるに先ち、東洋平和の大義に基き此合同を日本人に迫らば日本人之を辞するの言葉なからん。
 嗚呼何ぞ其言の幽婉ゆうゑんなるや、吾人は新人子を以て直ちに法衣を着たる狼なりと為す者に非ず、然れども此時此文を以て国民子の言に比すれば、吾人は実に此感なきを得ざる也
 見よ、領土保全と称するも、合同と称するも、其結果は只ヨリ大なる日本帝国を作るに過ぎざることを、又見よ、今の合同を説く者も、領土保全を説く者も、同じくかつて韓国の独立扶殖を説きたる者なることを、然らばすなはち将来の事亦知るべきに非ずや、要は只其時の都合次第に
 くて吾人は此の有力なる二論文が、あるひは法衣を脱ぎ、或は法衣をまとひ、或は表となり、或は裏となり、或はおどし、或はすかし、百方苦心、韓国滅亡の為に働きつゝあるを見たり、而して吾人は又日本の浮浪の輩がかくの如き論議を背後に負ひて或は長森案を韓廷に提出し、或は塩専売権、或は煙草専売権、或は仁川じんせん埋立工事、或は水田買収計画等に奔走し居るを見たり、日本が文明の為に戦ひて東洋諸国を指導すとふものゝ其の公明正大なること一に何ぞこゝに至るや
(第三十六号 明治三十七年七月十七日 二頁)


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