日本皇帝睦仁君に与う

提供: 日本社会主義文献類聚
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  • 1907年11月3日(大正天皇の天長節)、サンフランシスコの日本領事館に貼付された「日本皇帝睦仁君に与う 」の全文である。当時の官憲資料によれば小成田常郎の示唆により竹内鉄五郎が起草、岩佐作太郎倉持善三郎も関係したと推測されている。『暗殺主義』の原本は、大逆事件再審請求の過程で和田英吉の遺品中発見されたものが唯一現存している。
  • 底本:『資料戦後学生運動 2』三一書房、1969年
  • 初出:『暗殺主義』 1909年11月3日
  • 用字、仮名遣いは底本に従った。

「我徒は暗殺主義の実行を主張す」 ――日本皇帝睦仁君に与う

日本皇帝睦仁君足下そっか 余ら無政府党革命党暗殺主義者は今足下に一言せんと欲す

そもそも天地間に存在するすべての物体は一分時一秒時といえども静止の状態にあることなし、人類界またしかりきのうの人類は今日の人類にあらず、今日の人類また明日の人類にあらず、あるいは遙かにさかのぼって人類の祖先を尋ぬればそは猿類なりしを知るべく猿類の祖先またそれ以下の動物たるや明らかなり、これを精細に比較考究せばその間に進化律の存するありてかくのごとく変化しかくのごとく発展して、ほとんど以前の形骸をだに認めざるに至る。

足下知るや。足下の祖先なりと称する神武天皇は何者なるかを、日本の史学者は彼を神の子なりというといえどもそはただ足下に阿訣あゆを呈するの言にして虚構なり、自然法のゆるさざるところなり、ゆえに事実上彼また吾人と等しく猿類より進化せる者にして、特別なる権能を有せざるは今さら余らの喋々をまたざるなり。

彼はいずこに生れたるやに関しては今日確実なる論拠なしといえども、おそらく土人にあらずんば支那 あるいはマレー半島辺より漂流せるの人ならん、さもあらばあれ彼はその付近を掠奪して多くの奴隷を作り大いに暴威をふるえたるを、今日足下が吾人に向ってなしつつあるとあえて異ならざるべし。

その当時において最も残忍刻薄なる彼神武はみずから主権者なり統治者なりという名目のもとにあらゆる罪悪汚行をもっぱらにし、その子また父にならえ〔ママ〕、その子また父になろうてつい百二十二代の足下に至れり。噫二千五百有余年間! この間、足下および足下の祖先を足下らの権友を維持せんがために、足下らの虚栄心に満足を与えんがために、いかに多く吾人を苦しめたるよ、いかに多く吾人をほふりたるよ、いかに多く吾人の富を奪いたるよ、吾人はこを思う時に当り、足下らの首を切り足下らの肉をあぶりて食らうもなおあきたらざる心地す、あえて問う、足下らいずこより権力を得たる、もし足下らが生れながらにして得たりとせば、足下らに迫害され蹂躙せられつつある吾人もまた得ざるべからず。

しかるを事実はこれに反せり、余らの足下らを目して残忍刻薄なりというは実にこれがためなり。

権力は暴威なり、暴威をもって他を圧するの力なり、ゆえに暴威ますます盛んなれば権力ますます盛んなり。足下の祖先の、ある者はたまたま他より権力を害せられたる時は暴威の他より害せられたるの時なり。今は足下は足下の権力を他より害せられたるの時なり。今は足下は足下の権力を他より害せられざらんがために、しかしてその権力を絶大無限ならしめんがために、その機関として政府を作り法律を発し軍隊を集め警察を組織し、しかして他の一方には人民をして足下に従順ならしめんがために奴隷道徳すなわち忠君愛国主義を土台とせる教育をもってす、また務めたりというべし、しかしてその必然的結果として生じたるは貴族なり、資本家なり、官吏なり、これらの輩は常に足下の威をかりて暴逆無道、人民を苦しめんことあたかも木偶漢でくのぼうを遇するがごとし。かくのごとくにして日本人民 は奴隷となりたるなり、自由を絶タイ的に与えられざるなり、足下は神聖にして侵すべからざる者となり紳士閥は泰平楽をならべて人民はいよいよ苦境におちいれり。

睦仁君足下足下よく自由なくして『人』たるを得るか、思うに得ざるべし、足下の人たるを得ざるごと く吾人もまた得ざるなり、いかにとなれば人は『人』にして初めて人なればなり、嗚呼誰れか人のごとく生れて『人』たるを欲せざる者あらんや。吾人は実に人たらんを欲するなり、ゆえに奴隷の位置を棄てて自由の位置を得ざるべからず、今日の学者よく人生の意義を語る。しかれども彼らの語るところは人生の意義にあらずして奴隷の意義にあらずや、 現在のいわゆる『人間』の意義にあらずや。

自由なくして何の人生ぞ、人は自由にして生き人は自由にして初めて進歩発達す、しかるを足下の権力およびその機関は常にその生を害し進歩発達をさまたげつつあるにあらずや。

ここにおいてか知る、足下および足下の機関の存在は吾人五千万の日本人をして『人』たらしめざるな り、かくのごとくにして吾人はなお足下に向いて敬意を表し、陛下よといわざるべからざるか。

睦仁君足下さきに足下は足下の暴威の範囲を拡張せんがために隣邦支那と戦え〔ママ〕たり、近くは露国と戦えたり、この時において足下の幇間は挙国一致を説き、忠君愛国を語りておおいに殺戮を奨励したり、 嗚呼日本の平民は支那の平民になんらの怨恨かある、露国の平民は日本の平民になんらの怨恨かある、かれらの多くは日本人を知らざるがごとく日本人もまたかれらを知らざるなり、ゆえにその間になんらの利害得失のあるべきはずなし、いわんや剣をぬき砲をとりて戦うにおいてをや、しかるを足下の奴隷道徳に養成されたるある者は『国のため!』とさけびある者は足下の法律の強請によりて戦場に走りぬ、かくて彼らは足下の名によりて数百万人を殺戮し、数百万人また殺戮されぬ。しかして足下の名によりて数百万の富を強奪しまた強奪され、あるいは消費し了わんぬ。

彼らの多くは何のために戦えしかをよく解せざれどもその結果はよく吾人にその何のためなるかを語るなり、戦後の足下は一等国の君子となりしにあらずや、貴族は爵位を得しにあらずや、資本家は巨万の富を得しにあらずや、しかしてみずから銃砲をとりて戦えし平民の子は戦場の露と消え、あるいは傷つけられ、あるいは捕虜となり幸いにして帰りし者は重税を課せられ数十億の国債をになえてなお饑餓と戦えつつあるにあらずや、見よ足下および足下の周囲なる権力階級は失うところなくして得るところ大なるを見よ、平民階級は失うところ大にして得るところ一もなきを。

人は生を欲す、これ足下と吾人と等しく欲するところなり、人は生を愛す、これ足下と吾人とひとしく愛するところなり、すべての動物は生の自由を有す、鳥の生存するは鳥の自由なり、人の生存するは人の自由なり、この自由ありて人は初めて幸福に鳥は初めて幸福なり、ゆえに吾人の生存は吾人自身の幸福のために生存するものにして足下に束縛せられ蹂躙せられんがために生存するにあらず。足下の権力は常にこの生存の自由を無視しつつあり、足下の命令によりて殺戮したるは、足下みずから手を下して殺戮したると等しきなり、足下の命令によりて殺戮されたるは足下のみずから手を下して殺戮したると等しきなり、足下重税を課して畿餓せしめたるは足下みずから手を下して餓せしめたると等しきなり、この意味において足下は謀殺者なり、虐殺者なり、かくのごとくにしてなお吾人は足下に向いて忠実なる奉仕をなすの義務(もしあるとして)ありというか。

睦仁君足下足下はただ足下の権力を維持せんがためにかくまでも大なる犠牲を作りてあえてかえり見るところなきか、しかして日本の自由論者は足下に何を語り足下に何を要求しつつあるかに耳をかたむけざるか、余らは知る、足下はただ単に耳をかたむくることをさえなさずして、かえって彼らを迫害し圧制しつつあるを、自由をさけびたる新聞雑誌は発行を禁止され罰金を課せられたるにあらずや、自由を呼びたる新聞雑誌記者は入獄を命ぜられたるにあらずや、自由を要求したる労働者の一群は軍隊に射殺され投獄されたるにあらずや、単に憲法の範囲内における自由を主張したる日本社会党すら解散を命ぜられたるにあらずや、ここにおいて吾人は断言す、足下は吾人の敵なるを、自由の敵なるを、しかして足下が自由論者に向いてなしたる行動は自由論者に向いて挑戦したる行動なりと、よししからば吾人にもまた吾人の覚悟あり、吾人いたずらに暴を好むものにあらず、しかれども暴をもって圧制する時には暴をもって反抗すべし、しかり、吾人は最後の血滴をそそがんまでも足下に反抗し現在の秩序に逆らいて反抗すべし、遊説や煽動のごとき緩慢なる手段をやめて、すべからく暗殺を実行し間諜者圧制者は、すべてその人のいかなる位置にあるを問わずことごとくこれを謀殺すべし。

足下の政府は意の欲するがまま余らを絞殺し、またある一部の革命団体を圧服撲滅することを得ん、余らはまた足下の政府が革命の肝要なる機関を打破するにおいて成功しうべきを認めん、しかれどもそは到底事物のありさまを変更するの力を有せざる明らかなり。


春来りて花咲くは何のためぞ、そは自然の力なり、夏来りて実を結ぶは何のためぞ、そは自然の力なり、それ革命の起るや、起らんとして起るにあらずして自然に起るものなり、革命は決して個人に関係せしことにあらずしてむしろ社会有機体の進行なり、国民の不平は不平として生ぜしにあらず、自然淘汰の作用によりて生出したるなり、しかしてその作用の最後に起りたるは実に余らの暗殺主義そのものなり。

これらを単純なる紙上の空論と誤認するなかれ、暗殺主義は今や露国において最も成功しつつあり、仏国においてもまた成功したりき、余らの暗殺主義はこれらの先進者の成敗(せいはいに鑑みて、一層精細なる研究をつみて生れたるものなり。

足下はこは実におそるべくまた驚くべきものにあらずや、しかりこれ実に悲しむべきものの、最なり、しかれどもこは足下自身のみずから作りしものなり、またいかんともすべからざるなり。

睦仁君足下、憐れなる睦仁君足下、足下の命や旦夕たんせきにせまれり、爆裂弾は足下の周囲にありてまさに破裂せんとしつつあり、さらば足下よ。

 千九〇七年十一月三日
  足下の誕生日
   無政府党暗殺主義者
(この原文を英仏独の三国語に翻訳して世界万国に配付したり)


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