嗚呼増税!

提供: 日本社会主義文献類聚
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  • 社会主義者幸徳秋水(1911年没)による評論「嗚呼増税!」の全文である。
  • 底本:林茂・西田長寿編『平民新聞論説集』岩波書店、1992年
  • 底本の親本:週刊『平民新聞』 第20号 1904年3月27日
  • 用字・仮名遣いは底本に従った。


嗚呼増税!

 嗚呼あゝ『戦争のめ』てふ一語は、有力なる麻酔剤なるかなこの一語をもつのぞまる、聡者そうしやその聡をおほはれ、明者も其智をくらまし、智者ちしやも其智を失ひ、勇者其勇をうしなふに足る、いはんや聡明智勇ならざる今の議会政党のごときをや
 彼等議会政党は今やこと/″\く『戦争の為め』てふ一語に麻酔して、其常識をて、其理性をなげうち、しかして全く其議会政党たる所以ゆゑんの精神能力を遺却して、単に一個の器械となりをはれるを見るなり、何の器械ぞや、いはく増税の器械れ也、而して政府者は、巧みに這箇しやこの便利なる自動器械を使用せり、而して六千余万円の苛税かぜいたちま吾人ごじんの頭上に課せらる
 嗚呼六千万円の増税、苛重かちやうなる増税よ、是れ実に『戦争の為め』なるべし、しかれども如何いかに戦争の為めなりとて、富財は自然に天よりくだる者にあらず、地よりく者に非ず、これを負担する国民の苦痛は、依然として苦痛ならざるべからず、然り、何人なにびとも之を以て愉快なり、幸福なりとする者はあらじ、而も国民は何故なにゆゑ如此かくのごときの苛税に忍ばざる可らざる、何故に如此きの苦痛と不幸とを予防することあたはざりし乎、之を除去すること能はざる乎、之に盲従せざる可らざる乎、彼等は答ふ『戦争の為め』にむを得ざる也と、然らばすなはち国民は何故に戦争てふことをさざる可らざる乎、之を廃する能はざる乎、之に盲従せざる可らざる乎
 吾人は此際切に一般国民に向つて望む、願はくば彼等しばらく一切の感情のほかに立ち一切の迷信のへうで、真に赤裸々の道理に向つて此問題を一考せんことを
 れ吾人の国家を組織するは何故ぞや、政府を設置するは何故ぞや、而して国家政府を維持せんが為めに、其生産せる財富の一部をいだして以て国家政府を支持するの資となすは何故ぞや、他なし、一に之によつて吾人の平和と幸福と進歩とを保続せんが為めのみに非ずや、換言すれば国家政府は唯だ吾人の平和と幸福と進歩とをきたさしむるの方法器具に非ずや、租税は吾人の平和と幸福と進歩とを来さしむるの代価に非ずや、然り之れ誠にきはめて簡単明白の事実也、古今東西幾万巻の政治書、財政書の論説する所といへども、其目的は所詮之れ以上に出づるを許さず、決して之れ以外にるべきの理なし はたして然りとせば、こゝに一個の国家政府となづくる者あり、吾人の為めに決して何等の平和、幸福、進歩を供するなくしてかへつて吾人を圧制し束縛し掠奪りやくだつするに過ぎずとせば、吾人はいづれところにか其存在の必要を認むるをる乎、こゝに苛重の租税あり、吾人の為めに決して平和と進歩と幸福とを買ひ得ずして、却つて殺戮さつりく、困乏、腐敗を以てむくいらるゝに過ぎずとせば、吾人は何の処にか其支出の必要を認めんとする乎、し如此くんば、吾人生民は初めより国家政府なきにかざる也、初めより租税なきに如かざる也、単に増税の具たるに過ぎざる議会政党なきに如かざる也、また是れ極めて簡単明白の道理にあらずや
 吾人は今の日本の国家政府を以て、直ちに如此しといふ者に非ず、今の日本の国家政府を以て全然無用なりといふ者に非ず、然れども今回の戦争、及び『戦争の為め』に苛重の租税を徴せらるゝに至りては、吾人が国家政府を組織し、之を支持する所以ゆゑんの根本の目的理由と、はなは相副あいそはざるを断言せずんばあらず
 今の国際的戦争が、単に少数階級を利するも、一般国民の平和を攪乱かくらんし、幸福を損傷し、進歩を阻礙そがいするの、極めて悲惨の事実たるは吾人のしばしば苦言せる所也、而も事つひこゝに至れる者一に野心ある政治家これを唱へ、功名に急なる軍人之を喜び、奸猾かんくわつなる投機師之に賛し、しかうして多くの新聞記者、之に附和雷同し、曲筆舞文、競ふて無邪気なる一般国民を煽動教唆せるの為めにあらずや、而して見よ、将帥しきりせふを奏するも、国民は為めに一粒の米を増せるに非ざる也、武威四方に輝くも国民は為めに一領の衣を得たるに非ざる也、多数の同胞は鋒鏑ほうてきさらされ、其遺族は飢餓に泣き、商工は萎靡ゐびし、物価は騰貴し、労働者は業を失ひ、小吏は俸給を削られ、而して軍債の応募はしひられ、貯蓄の献納は促され、其極多額の苛税となつて、一般細民の血をからし骨をえぐらずんばまざらんとす、如此かくのごとくにして三月を、五月を経、夏より秋に至らば、一般国民の悲境はたして如何なるべきぞ、おもふてこゝに至れば吾人実に寒心にへず、少なくとも此一事においては、吾人は遂に国家てふ物、政府てふ物、租税てふ物の必要を疑はざるを得ざる也
 だ吾人は今日に於て、決してトルストイの如く兵役を避躱ひだせよ、租税を払ふなかれといふ者に非ず、吾人は兵役の害悪を認め、租税の苦痛を感ずるも、而も是れ吾人国民が組織せる制度の不良なるが為めにきたる者也、如何いかんせん、国民既に此国家を組織し此政府を置き、此軍備を設け、此議会政党を認めて、而して租税を払ふべきことを約す、其無用なると有害なるを論ぜずして、遂に之に従はざるを得ざる也、国民が此如きの制度組織を承諾するの間は、彼等は遂に如何いかんの不幸に遭遇し、如何の苦痛を被るも、又已むことを得ざる也、之が抗議と防拒とは、唯だ法律の罪人たるにとゞまるのみ、吾人は実に之を遺憾とす
 然らばすなはち吾人国民は永遠に、如此きの苦痛と不幸とを除去するあたはざる乎、盲従せざる可らざる乎、圧制、束縛、掠奪のさかひを脱して、真に平和と幸福と進歩との社会に入ること能はざる乎
 何ぞれ然らん、国民にして真に其不幸と苦痛とを除去せんと欲せば、直ちにたつて其不幸と苦痛との来由らいゆを除去すべきのみ、来由とは何ぞや、現時国家の不良なる制度組織是れ也、政治家、投機師、軍人、貴族の政治を変じて、国民の政治となし、『戦争の為め』の政治を変じて、平和の為めの政治となし、圧制、束縛、掠奪の政治を変じて、平和、幸福、進歩の政治となすに在るのみ、而して之を為す如何、政権を国民全体に分配すること其はじめ也、土地資本の私有を禁じて生産の結果を生産者の手中に収むる其をはり也、換言すれば現時の軍国制度、資本制度、階級制度を改更して社会主義的制度を実行するに在り、もしく如此くなれば、『井をほつて飲み田を耕してくらふ、日でゝ作し日いついこふ、帝力何ぞ、我に在らん』、雍々よう/\として真に楽しからずや、亦是れ極めて簡単明白の道理に非ずや
 吾人は我国民がしかく簡単明白の事実と道理を解するなく、涙をのんで『戦争の為め』に其苦痛不幸を耐忍することを見て、社会主義者の任務の益々ます/\重大なるを感ず
(第二十号 明治三十七年三月二十七日 一頁 社説)


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