労働問題の将来

提供: 日本社会主義文献類聚
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  • 社会主義者片山潜(1933年没)による評論「労働問題の将来」の全文である。
  • 底本:林茂・西田長寿編『平民新聞論説集』岩波書店、1992年
  • 底本の親本:週刊『平民新聞』 第2号 1903年11月22日
  • 用字・仮名遣いは底本に従った。


労働問題の将来

 産業の発達には、資本と労働の精鋭活潑くわつぱつなるを要す、しかして資本の運用をして活潑機敏に且つ効力あらしむる者は労働なり、東洋の実業家が労働賃銀のやすきを頼んで事業の成功を望む所以ゆゑんも、また同じく労働其者そのものが産業に最大必要なることを認むるゆゑなり、資本と労働及労銀の関係については他日に譲り、余は産業界において最も注意すべき労働問題に向つて一言する所あるべし
 余が労働問題を唱へ始めしは実に明治三十年の夏にして、爾来じらい今日まで労働問題のめに尽力しきたれり、日清につしん戦後の労働者は事業の勃興ぼつこうと共に賃銀の増収を得たり、而も同時に騰貴せる日用物価を仕払はざるべからず、一方には賃銀の高まりたるの結果労働者をして奢侈しやしに流れしめ、一方には物価騰貴の為め事実上労働者の増収少きをもつて其生活に困難を感ぜざるを得ざりき、しかり而しての生活難は戦後産業熱の冷却すると共に一層のはなはだしきを覚ふるも、又各事業縮小又は失敗の為めに労銀の削減さるゝも、一旦いつたん得たる奢侈の風を変ずるは無教育の労働者には殊更ことさらに困難にして、つひには堕落腐敗の悪習慣に陥る者多く、今や労働者は生活難の為めに如何いかんともするあたはざるに至れり、これに加ふるに失業者は各業の労働者間に続出して益々ます/\困難を感ずるに至る、労働問題の起るは当然の結果とはざるべからず
 然るに労働問題は萎靡ゐびとして振はず、一時隆盛をきはめたる労働組合も今や全然沈衰して其活動を見ず、事実起らざるべからざる社会に於てかへつて寂莫せきばくたるは、如何いかなる理由あつて存するか、余の見解よりせば今や労働問題は実に激烈なる状態を呈せり、外形上寂寥せきれうたるは労働者の境遇やむを得ざる故なり、彼等は虐待されれり、圧制の取扱ひをかうむれり、工場規約は残酷なり、賃銀は安く時間は長し、加之しかのみならず、工場は不潔なり、労働者は不平満々たり、然り而して彼等は工場雇主に圧迫さるゝのみならず、更に社会より圧制され経済上よりも苦しめらるゝなり、彼等は只管ひたすら職業を失はんことを恐れ、解傭を恐怖する実に甚だし、餓死するより優れりと云ふ感念は、今日の労働者が切歯扼腕せつしやくわんして守り且つ忍耐する所なり、然り、彼等は之が為めにぶた同様の生活、心身を害するも、病気になるも、あへてする所なり、彼等は権利を要求する声をも発する能はざる、あたか奴隷どれいの如し、抑も斯くあらしむる者は何ぞや、もとより労働者は無教育なり、無気力なり、而して実際活動の余裕なきまでに圧制され居れり、地平線以下の者なり、然りといへども其直接間接に労働者を斯くあらしむる者は治安警察法これなり
 抑も治安警察法が労働者の束縛法たることは実に明確なる事実にして、資本家の為めには労働者圧制の唯一の武器なり、然り、労働者は治安警察法の為めに自由を剝奪はくだつされたり、彼等は憲法治下の臣民として其保証を得ざる者なり、集会結社の自由も其死活問題に関して奪はれたり、是れ彼等労働者が斯く意気地いくぢなき所以なり、堕落腐敗せる所以なり、ヤケになりたる所以なり、労働運動は治安警察法によつほとんど死刑の宣告を与へられたるなり、労働運動は為めに活動する能はず、労働者は運動の自由を奪はれたり、労働問題の解決はづ治安警察法を廃止して労働者に自由を与へ、自治の民たるの本分を以て自ら解決せしむるにり、故に余は云ふ、労働問題焦眉の急務は治安警察法の廃止運動に在りと
(第二号 明治三十六年十一月二十二日 三頁)


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