与露国社会党書

提供: 日本社会主義文献類聚
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  • 社会主義者幸徳秋水(1911年没)による評論「与露国社会党書」の全文である。
  • 底本:林茂・西田長寿編『平民新聞論説集』岩波書店、1992年
  • 底本の親本:週刊『平民新聞』 第18号 1904年3月13日
  • 用字・仮名遣いは底本に従った。


与露国社会党書

 嗚呼あゝ露国にける我等の同志よ、兄弟姉妹よ、我等諸君と天涯地角てんがいちかくいまだ手を一堂の上にとつて快談するの機を得ざりしといへども、しかも我等の諸君を知り諸君をおもふことや久し
 一千八百八十四年、諸君が虚無党以外、テロリスト以外、別に社会民主党の旗幟きしを擁して、職工農民の間に正義人道の大主義を宣伝して以来、こゝに二十年、その間暴虐なる政府の迫害、深刻なる偵吏の羅織らしよく、古今実に其比を見ず、諸君の先輩たる義人烈士は、めに一代の名誉をて千金の栄華えいぐわなげうち、流離轗軻かんかの惨をきはあるひはペーターボールの牢獄ろうごく洩泄るいせつはづかしめかうむり、或は西比利しべりやの鉱山に無間むげんの苦を受け、或は絞台の鬼とり、或は路傍の土となる者、幾千幾万なることを知らず、而も諸君の運動はこれが為めに微毫びごう頓挫とんざを見ることなく、諸君の勇気は一難をごとに百倍し、つひ客臘かくろう露国全土の各団体をうつて一丸となし、其勢力実に天にちゆうするに至れり、我等平生諸君の苦心惨澹さんたんの状を想ふて、ひそかに同情に堪へざると同時に、更に諸君の操守の堅忍不抜なるを見るに及んで、感奮かず、おもへらく、我等この頼もしき同志、兄弟、姉妹を有す、我等の大主義の為めに、社会生民の為めに何等の幸福ぞやと
 諸君よ、今や日露両国の政府は各其帝国的慾望を達せんが為めに、みだりに兵火の端を開けり、しかれども社会主義者の眼中には人種の別なく地域の別なく、国籍の別なし、諸君と我等とは同志なり、兄弟也、姉妹也、断じてたゝかふべきの理有るなし、諸君の敵は日本人にあらず、実に今の所謂いはゆる愛国主義也、軍国主義也、我等の敵は露国人に非ず、而してまた実に今の所謂愛国主義也、軍国主義也、然り愛国主義と軍国主義とは、諸君と我等と共通の敵也、世界万国の社会主義者が共通の敵也、諸君と我等と全世界の社会主義者は、此共通の敵に向つて、勇悍ゆうかんなる戦闘を成さゞるべからず、而して今日はれ其最要時機にして、亦実に其最好時機に非ずや、我等は知る、諸君が決して此最好の時機を逸するなきことを、我等も亦我等の最良ベストすべき也
 然れども我等は一言せざる可らず、諸君と我等は虚無党に非ず、テロリストに非ず、社会民主党也、社会主義者は、万国平和の思想を奉持す、社会主義者が戦闘の手段は、あくまで武力を排せざる可らず、平和の手段ならざる可らず、道理の戦ひならざる可らず、言論の争ひならざる可らず、我等は憲法なく国会なき露国において、言論の戦闘、平和の革命のきはめて困難なることを知る、而して平和をもつて主義とする諸君が、其事を成すに急なるが為めに、時に干戈かんかとつち、一挙に政府を顚覆てんぷくするの策にでんとする者あらん、我等は切に其志をりやうとす、而も是れ平和を求めてかへつて平和を攪乱かくらんする者に非ずや、目的の為めに手段をえらまざるは、マキヤベリー一流の専制主義者の快とする所にして、人道を重んずる者の取る可き所にあらず
 我等はもとより両国政府の勝敗如何いかんを予知する能はず、然れども其いづれに帰するとするも、戦争の結果は必ず生民の困苦也、重税の負担也、道徳の頽廃たいはい也、しかうして軍国主義と愛国主義の跋扈ばつこ也、ゆゑに諸君と我等とは決して其孰れか勝ち、孰れか敗るゝを択むべきに非ず、要は戦争の停止のすみやかなるにり、平和の克復の早きに在り、諸君と我等とは飽迄あくまで戦争に抗議せざる可らず、反対せざる可らず、一千八百七十年普仏戦争当時に於ける万国労働同盟の決議と運動は、実に諸君と我等の学ぶべき所ならずんばあらず、我等は諸君の必ず此感をおなじくせらるべきを信ず
 嗚呼あゝ諸君と我等とは、同志也、兄弟也、姉妹也、断じて闘ふべきの理有るなし、諸君と我等の共通の敵なる悪魔は、今やさかんに其兇焰きやうえんを吐き毒手を伸べて、百万生民を凌虐りようぎやくす、是れ実に我等と諸君と世界万国の社会主義者との、ともふるつて一致同盟団結すべきのとき也、マルクスの『万国の労働者よ同盟せよ』の一語は、真に今日に於て実現せしめざる可らず、ねがはくば我等諸君と極力此事に従はん
 鳴呼諸君、諸君が暴虐の政府に苦しめられ、深刻なる偵吏に追はれて、我大主義の為めに刻苦するの時、三千里外、はるかに満腔まんかうの同情を以て諸君の健在と成功とを祈れる、数千の同志、兄弟、姉妹あることを記せよ

(第十八号 明治三十七年三月十三日 一頁 社説)


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